孫物語
書誌情報
孫物語
- 著者
- 椎名誠
- 出版者
- 東京 : 新潮社
- 出版年
- 2015
- ISBN
- 9784103456230
Shiina Makoto
更新
1944年、東京生まれ。東京写真大学中退。流通業界専門誌の編集長を経て作家業に入る。私小説、エッセイ、紀行文、SF小説など著作多数。目黒孝二らと本の雑誌社を設立し、月刊「本の雑誌」の編集長を務めていた。また作家以外にも映画監督、写真家としても活躍している。『犬の系譜』(1988)で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』(1990)で日本SF大賞受賞。小説作品は大まかに自伝要素の強い私小説系と、個性的SFや非日常的な小説等の超常小説系に分けられる。超常小説で描かれる世界観や生物観は独特。
火事で自宅アパートから締め出された男は、会社の屋上でテント暮らしを始める... 表題作など7編の短編と、フランス人画家による表題作の絵物語付き。
新宿に集うシーナ氏をはじめとする“バカ”な男達が“新宿遊牧民”に至るまでを記した実録小説。『哀愁の町に霧が降るのだ』に始まるシリーズの総集編といったところで、シーナ氏の本気遊びの半生がうかがえる。
『大きな約束』続編。取材旅や原稿書き、種々の講演や審査会... きっちりと詰まった日常で、ふっとかかってくる風太くんからの電話。幼い頃の息子との関係を思い起こしたりと、じいじいの趣を強くするシーナ氏だった。
風太くんと海ちゃんという孫ができ、“じいじい”となったシーナ氏。チベットを愛する妻、アメリカで生活する子どもたち、親しい友人、旅の仲間... シーナ氏の日常を綴った私小説。所々にはさまれる風太くんとの長距離電話に心温まる。
『週刊金曜日』への連載をまとめたもの。「オニユラシ」「タマセンカズラ」「アレチノカヤツリ」など、少年たちの冒険にあふれた毎日を草の記憶に絡めて描く。小学生の日記を読んでいるような気分で、それがまた味。
千葉の海と少年・青年というと、椎名誠の世界に戻ってきたなと懐かしい感じがする。昭和30年代、千葉の海沿いで青年への道を歩むイサムの物語。今回の主人公は斜に構えたところはなく、すっと物事を受入れられる柔らかさを感じた。
離婚と失業を同時に得た男は、ふらふらと南の島へ。そこで出会ったなんとも気持ちのよい男どもと海浜生活を送ることになるが... 南からのあたたかい風“ぱいかじ”に漂う、情けなくもパワフル男の物語。
幻灯機で飴玉の包み紙を映して喜びの声をあげていた少年の映画への憧れは、30年を経て実現するのであった。第1部では少年時代から20代後半までの映写機との関わり、第2部では椎名誠の初映画作品「ガクの冒険」について書かれている。ほぼ実録の映画傾倒記小説。
子供向け写真図鑑の撮影に南の島を訪れたカメラマン六兵。宿泊するホテルは人気のないリゾートホテル。流星タクシーに乗ってたどり着いたおじゃれ舟の美しい女性。変に疑い深い島の人々。彼は島の選挙をめぐる抗争に巻き込まれていく... 哀愁と美しさを感じる小説。
健康診断で尿酸値が高いことが判明し、痛風の危機にさらされたシーナ氏。尿酸値上昇の原因であるプリン体を多く含む食品(その中には著者の大好物ビールもある)とおさらばし、モヤシを片手に旅に出た!モヤシもただのモヤシではないですよ。
長く住んだ武蔵野の家を離れ、都心の高台へ移ったシーナ氏と妻。彼は冬になるとうつ症状にさいなまれ、妻の体調も優れない。子どもたちはもう長いことアメリカへ行ったままだ。そんな家族、それぞれの“かえっていく場所”とは?
精神的混乱と戦うシーナ氏の周りで、物事は歩み続ける。母の死、巣立ち行く子どもたち、妻、変わりゆく武蔵野、危険な追跡者。単に危機的状況に対応するシーナ氏に興味があるだけだが、「私のいる場所」と「隣の席の冒険王」が好きだ。
不安定な精神状態にある主人公の生活に絡みつくように現れる女Kとの関係を描いた表題作ほか、山奥の温泉旅館で出会ったあでやかな女将の話「ぐじ」など、私小説の語り口で妖しい女を軸にした短編集。
とある出版会社で契約社員として働く主人公に、海ちゃんという女の子が誕生した。若くして突然パパとなった彼の、子育てとともに変化する意識と生活に、なかなか好感がもてる。シーナ氏の体験を元にした子育て記。
大人になった子どもたちはアメリカで暮らし、妻との関係にかすかなぎこちなさを感じる。子どもたちを訪ねてアメリカに滞在する話や、亡くなった母が残した形見の話など、シーナ氏の変化しつつある家族関係を中心に描く。
シーナ氏が訪れた南の島々や海辺の町で出会った人々の話や身辺の話などをまとめた短編集。海の風景、妻のモンゴル行き、深酒によどむ朝。全体的に静かに淡々と。
東京湾に面した千葉の田舎町で育ったシーナ氏の子ども時代の冒険話。アメンボ号と名づけたいかだで川を下ったり、秘密基地を作ったり。毎日が濃密で新しい発見に満ちていた子どもの世界。
祖父の総之助(ノケ)が若い頃暮らしたフンデロッテという南の島での話。ノケと友達のカポ、ネギー、そしてターラは、“歩く魚”がいるという海を目指して旅に出る。ある島では鳥のように空を舞う人々がいたり...
『本の雑誌血風録』その後。「本の雑誌」は株式会社となり、椎名誠は勤めていた会社を辞める。モノカキ以外にも人を訪ねてインタビュー記事を書いたり、ラジオ番組に出たり、テレビの撮影があったり。多角的な活動が読み取れる。
グループに属さず独立した在り方は喧嘩を呼んだ。強くなりたい。寡黙に熱く人生に立ち向かう青年の中学から大学までの時代を描く。シーナ氏の自伝的青年小説。
『銀座のカラス』続編。「目黒ジャーナル」が「本の雑誌」となり、売れ行きを伸ばす様子を描いた実録。『哀愁の町に霧が降るのだ』の人たちが大人になり、何かおもしろいことはないのか!と騒ぎ始めたエネルギーぐるぐる所帯。
たくさんの私小説の中から選び出された傑作ぞろいのベストセレクション。巻末に著者による収録作品解説、日常小説系短篇リスト、私小説への思いが記されたあとがきが収録されている。
麦の道を行く津田尚介。「まあいいやどうだって・・」さめた気持ちの彼だったが、若麦の草いきれにあてられたように、彼の高校生活は次第に熱くなっていくのだった。シーナ氏の自伝的青春小説。
はじめの5編は少年時代もの。大人に成長しつつある少年たちのちょっと妖しく興味をひかれるできことが描かれている。小説の創作話を書いた「蛇の夢」、既視感のある道の記憶から若い頃の妻との生活を描く「道の記憶」など。
『岳物語』には登場しないがシーナ家には娘がいて、この本はシーナ氏の娘への思いが綴られた私小説である。「海ちゃん、おはよう」は育児雑誌に掲載されたもので、母親の立場で女口調というのが珍しい。
倉庫での仕事経験が小説化された「倉庫作業員」。同じ経験が超常小説になったのが「武装島田倉庫」。読み比べもおもしろい。表題作は哀愁、友情、恋心の入り混じった秀作。情景が心に残る粒ぞろいの一冊。
『新橋烏森口青春篇』続編。主人公は月報の編集長となり、ひとりで編集から発行までをこなすことになる。戸惑い冷や汗を流しながらも、思ったことを正直に伝える彼のストレート戦法がいいなと思った。
ハーモニカに白い手がひらひら揺れる。シーナ氏少年時代の物語。子どもの頃のなんだかよくわからないことばと結びついたイメージは宝物。
土星を長年観測している人の取材に向かう水島の脳裏にちらつくのは、妻からの電話で知った、死にかけているという飼い犬のことであった。表題作ほか、少しばかり暗くあやしい短編集。
海に潜って貝を採るのがうまいのだと言った女、船端を転げ出るように海へ入っていった珊瑚礁の女、貝を手に持ちカチリカチリと踊る女... シーナ氏が出会った海の香りのする女たち。
新宿をアジトに活動する“文筆業者”のアヤシク広がる妄想と憂うつに満ちた一日。シーナ氏が超常小説の主人公になったかのような文体と展開。著者撮影の写真が散りばめられている。
パチ、ジョン、チヨ。少年時代の飼い犬三代を軸に、シーナ氏の家族関係を描く自伝的長編。ですます体が私小説風。他作品の題材となる出来事などが系統的に収められている。
『哀愁の町に霧が降るのだ』続編。仲間はそれぞれの道を歩み始め、主人公も共同生活をしていたアパートを出て、デパート関連の業界新聞社で編集者の端くれとして働き始める。
菜の花を手に現れた出版社の女性は、シーナ氏の絵物語の構想にふわりと風を呼び起こす。表題作ほか、にぎやかな病棟に響く鬼子母神の蝉の声が印象的な、義母の死を描いた「蝉」など、シーナ氏の周辺の出来事を静かにつづった私小説。
ある夏の出来事。川を吹き渡る風を愛する男とともに3人の少年たちは川の旅に出た。物静かな犬と一緒に。カヌーイスト野田知佑とその飼い犬ガク、椎名誠の息子らの夏の旅が、沢山の写真とともに描かれている。
風になりたい。会社員を辞めフリーランサーになり、こんどは家庭から離れようとしたシーナ氏。気付けば妻とは半年ほど話らしいものをしていなかった。海沿いに揺れる一面のタンポポの風景が印象的なパタゴニアの旅。
シーナ家の長男、岳少年とその父の美しく力強い愛情・友情物語。『定本岳物語』は、『岳物語』『続岳物語』を加筆・再編成したもので、岳本人の随筆が収録されている。やはり当事者にとっては、自分のことが書かれた本というのは受け入れ難い存在のようだ。
シーナ氏の周りを“あやしく徘徊するさまざま雑多で魅力的な人間たち”。彼らの出会いから、日の当たらない六畳一間の狭苦しい空間で、ムサクルシイ男どもが暮らした2年間を描いた青春話。