注文の多い注文書
書誌情報
注文の多い注文書
- 著者
- 小川洋子
- クラフト・エヴィング商會
- 出版者
- 東京 : 筑摩書房
- 出版年
- 2014
- ISBN
- 9784480804501
目次
- 人体欠視症治療薬
- バナナフィッシュの耳石
- 貧乏な叔母さん
- 肺に咲く睡蓮
- 冥途の落丁
Ogawa Yoko
更新
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。医大秘書室に勤めていたが、結婚を機に退職。「揚羽蝶が壊れる時」(1988)で海燕新人文学賞、「妊娠カレンダー」(1990)で芥川賞、『博士の愛した数式』(2003)で読売文学賞と本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』(2004)で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』(2006)で谷崎潤一郎賞を受賞。美しい文章、物語の合間に時々現れる心の暗闇にはっとさせられる。
世界の片隅でひっそりと、そして真摯に生きる人と動物をつないで物語る短編集。ぬめぬめと気味の悪さが光る、断食治療を受ける女とかたつむりを飼う灯台守の男の話「断食蝸牛」、旅のできない人の代わりに身代わりガラスを持って旅をする「竜の子幼稚園」の、ガラスの光と牧草地の青さが印象的。
山岳地帯で反政府ゲリラの人質となった8人。長引く拘束の中、彼らは思い出を語り合うことにした。“未来がどうあろうと決して損なわれない過去”から取り出された8つの物語。
無花果の実る井戸に落ちた赤ん坊は私自身か、それとも己が投げ落としたものか。山奥の温泉で不思議な場所に迷い込み、なんの関係もない小学校の運動会を保護者に紛れて見学する。世の隅でひっそりと孤独に生きる小説家が日記につづる、有機的で不気味な香りの漂う日常。
いつの間にか姿を消していた縁日のカラーひよこ。老齢の犬にできたコーヒー豆そっくりのイボ。歳をとるという変化に動揺することなく平穏に生きたい。表題作ほか28本を収めたエッセイ集。
小川氏がパーソナリティを務めるラジオ番組「Melodious Library」の最初の1年間をまとめた一冊。未来に残したい文学遺産が、時代や分野を超えて52編紹介されている。ネタばれはなく、彼女の作品への愛着を通した読書案内になっている。春夏秋冬で分けられているのも一興。
小川氏が“秘密の収集箱”から取り出してくれた、お気に入りの短編16作。どの作品も彼女の小説の世界観に通ずるところがあり、その偏愛さがたのしい。各作品に小川氏の解説エッセイ付き。
少年は、すねの皮膚を唇にもち、屋上に取り残された象と隙間に挟まった少女を友達にもつ。彼はチェスと出会い、“盤上の詩人”と称えられた達人にちなんでリトル・アリョーヒンと呼ばれるようになる。チェスという静かな深海を舞台にした物語。
2006~2007年に「野生時代」に連載された短編を収録した一冊。楽器の音色をよくする涙をもつ女性が恋に落ちる話「涙売り」、中華料理店のエレベーターで生まれ育った「イービー」の話など。不可思議、グロテスク、幻想的な物語。
小川洋子が講演会で語った話をまとめたもの。「物語の役割」「物語が生まれる現場」「物語と私」の3部にわかれており、物語の持つ魅力や役割、制作の裏側、彼女の読書体験をもとにした物語との関わりなどが記されている。
小さな宝箱のような掌編もある短編集。気ままな一人旅のはずが、ツアー同行者の老女と関わりあうことになる「風薫るウィーンの旅六日間」、和文タイプ事務所で働くタイピストと活字管理人を描いた「バタフライ和文タイプ事務所」など、小川洋子の美しき毒。
中学校へあがるとき、家庭の事情で叔母夫婦に預けられることになった朋子。舞台は1970年代。芦屋の山すそに建つ洋館で、従妹のミーナらと過ごした1年間は、朋子にとってあたたかで大切な思い出となるのだった。
書き下ろしや雑誌・新聞に掲載されたものなど71話のエッセイ。5つのテーマ「数の不思議に魅せられて」「『書く』ということ」「アンネ・フランクへの旅」「犬や野球に振り回されて」「家族と思い出」にわけられている。内容は『妖精が舞い下りる夜』と被る部分が多いが、『博士の愛した数式』をはじめ、いくつかの作品の逸話が記されている。
樋上公実子のイラストを元に小川洋子が書き下ろした競作。樋上氏の絵と小川氏の美しく残酷で官能的な雰囲気がよく合っている。駅の忘れ物保管室から集められた落し物のおとぎ話。スワンキャンディーの“忘れ物図書室”で、その数々をキャンディーと共にどうぞ。
ブラフマン。それは、ある日、僕の前に現れたふしぎな小動物。芸術家達が滞在する“創作者の家”で管理人として働く主人公とブラフマンが過ごした一夏を描く。
記憶が80分しか持続しない天才数学者、家政婦の“私”と息子ルートをめぐる物語。すばらしい感動を与えてくれる。数学という一見小説とは異質なものを上手に組み入れた著者の力量に感嘆。
ツルゲーネフの『はつ恋』を要約し、小川洋子の文章、中村幸子の絵で描いた作品。16歳の夏、両親と別荘を訪れた少年は、隣家の庭にひとりの少女を見つける。魅惑的な彼女に少年は恋する人となるが、その恋には父の影がちらつくのだった...
死んだ動物の肉体の収集に没頭した伯父。彼の死後、伯母は収集品の毛皮に頭文字“A”を刺繍する。彼女はロシア・ロマノフ朝の生き残り、アナスタシアなのか。強迫障害を患い、独特の儀式を経ないと建物に入ることのできない主人公の恋人ニコ。剥製を狙い寄ってきたライターのオハラ。個性的な登場人物たちが叔母を描き出す。
まぶたを偏愛する中年男性と15歳の少女の関係を描いた表題作ほか、背泳ぎの途中のように腕をあげたまま降ろせなくなった水泳選手の弟「バックストローク」、料理教室の排水管から出てくるものは... 「お料理教室」など、粒ぞろいの短編集。
主人公が女性作家だったり、現実と符号する部分がいくつかあるので、創作なのだろうとわかっていても、その交錯に思わずどきっとしてしまう。小さな息子と犬のアポロと共に独り寂しく過ごす彼女の元へ静かに訪れる偶然の数々。連作短編。
ある村の偏屈な老婆に依頼され、死者の形見を展示する博物館の立ち上げに携わることになった若い博物館技師。彼は老婆や彼女の娘である少女らと共に準備を進めるのだが... 形見たちが醸し出す物語は、少しミステリー仕掛け。
よく晴れた日曜日の午後、町の広場に面した洋菓子店をひとりの女性が訪れた... 「洋菓子屋の午後」から始まる本作は、11の短編が少しずつ関連しあって、現実のようで現実ではないようなひとつの奇妙な世界をつくり上げている。むむむと唸らせられるおもしろさ。
一緒に暮らしていた恋人が突然の自殺。彼は香水をつくる調香師として働いていた。彼の死後、現れてくる彼の知られざる面。残された香りの記憶を手がかりに、彼の本当の姿を求めて彼女はプラハへ向かう。
愛人のいる夫との不和。逃げ込んだ奥深い別荘。そこで出会ったチェンバロという楽器をつくる男と助手の女。盲目のパグ犬。どうあがいても入り込むことのできない二人の関係。
母が経営する海辺の小さなホテルを手伝う17歳の娘と、ロシア語の翻訳家である初老の男。二人の愛の形は支配と陥れられる関係だった。いつもは臆病で不器用なのに、人を支配しようとするとき、威圧的にそして器用に振舞うことができるようになる男が現実世界の際から落ちていきそうで怖い。
母のいるホスピスで、僕は子どもの頃に出会った少女と再会する。表題作ほか、時から開放された収容所での話「森の奥で燃えるもの」など、魅力的な物語世界が閉じ込められた短編集。
著者が多大なる影響を受けた『アンネの日記』。そのアンネ・フランクの足跡をたどる旅。アンネ・フランク・ハウスを訪れ、生存する関係者に会う。そして、アンネの死んだアウシュビッツへ。
サイダー工場で薬指の先をひとかけら失った主人公は、人々の思い出の品を閉じ込める標本師のもとで働き始める「薬指の標本」。プールで見かけた不思議な女性ミドリさんの後をつけてたどり着いたのは、木でできた“カタリコベヤ”と呼ばれる空間だった「六角形の小部屋」。
花、鳥、香水... 記憶がひとつひとつ消滅していく島に生きる作家の女性。消滅の影響を受けない人々を“記憶狩り”と称し、秘密警察が連行する。作家の書く小説と並行して展開される物語。
エッセイ。著者の小説を書くということへの姿勢、家族の思い出、スポーツの話、日々の出来事、自著や好きな作家の作品についてなどが、小説と同じく丁寧な文体で綴られている。
地下鉄のホームに置き忘れられたトウシューズ。拾った僕は、刺繍されたアンジェリーナという名に宛ててメッセージを出す。小川洋子が長年のファンである佐野元春の代表曲からつむぎ出した短編集。
耳を病んだ彼女が出会った速記者Y。静かに、滑らかに記録を行なうYの指に彼女は惹きつけられる。彼女はなぜYの指に魅力を感じるのか。心に正直な彼女の耳とYの指。記憶と現実が交錯する物語。
抑え切れない食欲と向き合う大学生のかおる。その異常な状況のきっかけとして思い浮かぶのは、新しいアルバイトと弟の引っ越しだった... 恋人、親友、弟、かおる。彼らが過ごす砂糖菓子のようにもろくはかない時間。
姉の身体に着実に影響をもたらしつつある何か。姉の妊娠という出来事に直面した妹の視点で生命への疑念を鋭く描き出した表題作ほか、主人公が暮らした古い学生寮にまつわる話「ドミトリイ」、新しい生活を待つ家に突然訪れたふしぎな親子の話「夕暮れの給食室と雨のプール」。
中学生時代の同級生の葬式の日に再会したK君。彼に出された冷めない紅茶。ねじれた時間と空間「冷めない紅茶」。孤児院で暮らす彼女は、孤児ではないけれど、本当は永遠の孤児なのかもしれない。幼い少女への虐待を行う彼女の心に、鈍く引き裂かれる「ダイヴィング・プール」。
有機的な日常生活に対して清潔に整えられた病室。その完璧な空間の中で、弟は透明で無機的な存在となっていった。不治の病に冒された弟への姉の思いを描いた表題作ほか、認知症を患った祖母を施設へ送った後、正常と異常の境目で揺らぎ始める女性を描いた「揚葉蝶が壊れる時」収録。