太宰治の辞書
書誌情報
太宰治の辞書
- 著者
- 北村薫
- 出版者
- 東京 : 新潮社
- 出版年
- 2015
- ISBN
- 9784104066100
Kitamura Kaoru
更新
1949年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1989年に『空飛ぶ馬』でデビュー。当時は性別も明かさぬ覆面作家だった。『夜の蝉』(1990)の日本推理作家協会賞受賞をきっかけに正体を明かすことになるが、『空飛ぶ馬』の主人公が清純な乙女だっただけに、様々な憶測が飛び交っていたらしい。専業作家になる前には、母校である春日部高校などで教鞭をとっていた。北村氏の作品では、日常の中にあるちょっとした謎や疑問を解くという“日常の謎”がテーマになっている。『鷺と雪』(2009)で直木賞を受賞。
文芸誌の編集部で働く“わたし”は、仕事と私生活での心労が重なり停滞した日々を送っていたが、同僚に誘われた山歩きが彼女に救いの手を差し伸べたのだった。3年後、彼女は槍ヶ岳を目指す... 物語の道中は、少し偏屈でお菓子好きのアラフォー女子とふたりきりなので相性次第。
出版社に勤める都さん。酔うと記憶をなくす少しばかり危ないところのある彼女と、お酒好きの同僚たちによって繰り広げられる悲喜こもごも。お酒の話や日常の謎がよい具合に絡んでいる。
いとま申して、さらば... 辞世の句を残して世を去った北村薫の父。昭和初期、彼は童話や戯曲に傾倒した青年であった。亡き父の日記をもとに、当時の日本で文学を試みた若者たちの姿を描き出す。
テレビ編集者とお気に入りだった木の話の表題作ほか、穏やかに暮らしているはずの夫婦の話「マスカット・グリーン」など、女性を主人公に日常の何気ない瞬間に足をすくわれるような恐怖を描いた“陰のある”短編集。
『玻璃の天』続編。失踪した名家子爵の謎。夜中の上野で補導された男の子の謎。高等科進学を控えた英子は、運転手のベッキーさんと共に謎を解明していくのだが。昭和10年の夏... 人里で鳴くと災いが起こるというブッポウソウの声が夜の東京に響いた。
「大変だ!大変だ!」と叫びながらかけて行く、新聞記者のウサギならぬ宇佐木さんの後を追いかけていたら、時計屋さんの大きな鏡を抜けて不思議の世界へ。とある小説家が少年野球の名ピッチャーのアリスから聞いたお話。
1995年から2007年までに発表された掌編・短編を集めたもの。ひんやり怪奇的なものから胸が熱くなる話までさまざまな23話。どの話も人のつながりが大事に描かれている。「ほたてステーキと鰻」は『ひとがた流し』の後日談。
『街の灯』続編。花村家の令嬢英子と女性運転手のベッキーさんが、日常で遭遇する謎を推理する。小さな謎が散りばめられていたり、文学考察があったり、昭和初期の東京の空気を感じられたりと楽しみどころがたくさんある。そして、ベッキーさんの謎が少しずつ明かされていくのだ。
激動はなくても、日々の小さなできごとの積み重ねが深みを与える。そのような視点で描かれた登場人物たちがよいと思う。そして、そのようなことを静かに描く丁寧さに涙。『月の砂漠をさばさばと』を併せてどうぞ。
1994年から2005年までと、幅広い期間から集めた短編集。OLの狂気と崩壊を静かに描いた「溶けていく」、“両手が恋をしている女と探偵”の連作、出版社勤務の千春さんが遭遇する日常の謎、カチカチ山などの御伽噺を新たな視線で謎解きした「新釈おとぎばなし」など。
ミステリーの巨匠エラリー・クイーンの遺稿を翻訳したという形で描かれるパスティーシュ。EQの作品考察が中盤を占めるので、EQを読み込んでいればさらに楽しめるかと。
空想家の男が、女たちの語りを聞く。千夜一夜物語の雰囲気を感じる。夏の夜に、ゆっくりと読みすすめたい美しい短編集。
昭和初期の上流社会を舞台に、花村家の令嬢が運転手ベッキーさんに導かれ、疑問を見出し解決する力をつける。落ち着きのある丁寧な文体と時代状況がよく合っている。武術にも秀でた切れ者のベッキーさん。まだまだ隠された謎がありそう。
時と人シリーズ3。真澄は戦争が始まる前に父の腕の中で毛布に包まれ獅子座流星群を見た。約30年後、真澄が出会った少年は、子どもの頃に彼女が密かに心のつながりを持った修一の記憶を取り戻す。流星群と一曲の歌の記憶を頼りに、時をさまよう少女と少年。
自宅に猟銃を持った殺人犯が立てこもった。妻を人質に取られた夫、白のキングのチェスメイトとは。チェスの盤上での戦いを下敷きに進行する物語の結末は意外な方向に。
私の歩んできた道が、あなたの歩む道を豊かにしてくれますように... 作家のお母さんと小学生の女の子さきが紡ぎだす日々の小さくて大きなお話。おーなり由子のやさしい絵をお供に。
“私”と円紫さんシリーズの第5作目。“私”は大学を卒業し、みさき書房に就職する。正ちゃんは地元で学校の先生、江美ちゃんは旦那のいる九州で電話秘書の仕事。円紫さんとの交流ももちろん続いている。全体的に文学的解釈が多く、知識不足に泣いた。
時と人シリーズ2。交通事故でたった一人の時間に取り残された版画家の女性。“ね”の字のくるりのように午後3時15分になると、同じ場所・同じ時に戻ってしまう。やっと作り上げた作品も一日を過ぎれば消えてしまう。何かを育てる、継続することができない。できるとしたら自分の心の中だけ... 彼女はいつか戻れる日が来るのだろうか。
覆面作家シリーズ第3弾。ディズニーランドでの写真の謎、マルハナバチをめぐる謎、ドールハウスの謎。お洒落な恋の話あり。千秋さんと良介の仲にも展開が... ?
覆面作家シリーズ第2弾。覆面作家として執筆を続ける千秋さん。他出版社の担当者も登場し、事件に挑む。パティスリーの謎、小学生誘拐殺人事件の謎、劇団のヒロインの謎。千秋さんの危機一髪に、良介は...
時と人シリーズ1。ある日の午後、昼寝から目覚めた17歳の真理子は42歳になっていた。混乱しながらも真理子は自分の42歳を生きはじめる。17歳から見ると42歳なんて理解不能のようだが、同じようなことを考え、感じながら生きてきたことに、存在のつながりを感じる。
“人と人の、《と》に重きを置いて書かれた”短編集。椎名誠的な発想がおもしろい。ふしぎな水で作られたウィスキー水割り「水に眠る」。個人用小型空調機「くらげ」。パパがふたり「矢が三つ」など。
姫宮あゆみの勤める不動産会社の2階に一風変わった男がやってきた。名探偵事務所をかまえた巫(かんなぎ)弓彦。名探偵なので、人知を越えた難事件しか扱わない。物書きを志す姫宮あゆみは、巫のワトソンとして記録を始める。
“私”と円紫さんシリーズの第4作目。大学で芥川龍之介をテーマに卒業論文へ取りかかる“私”。アルバイト先の出版社での出会いをきっかけに、芥川と菊池寛の間でなされた“キャッチボール”の謎を追うことに。次々と先の見えない紐を手繰り寄せるようにして関連が見えてくる楽しさ。学問は謎解き。
覆面作家シリーズ第1弾。覆面作家の千秋さんは、内気でおしとやかで美しい大富豪令嬢。でも外に出ると、彼女はまったく正反対の女性に大変身。彼女にひかれる担当編集者、良介と共に謎を解き明かす。千秋さんの気持ちよいぐらいの対極性がおもしろく、頭の回転のよさも爽快。
“私”と円紫さんシリーズの第3作目。“私”の卒業した高校で、文化祭の準備をしていた生徒会の子が屋上から墜落死する。謎に包まれた死の真相は... 人の死は、日常と表裏一体。だからこそ大きな悲しみが残る。
“私”と円紫さんシリーズの第2作目。ふたりの友人、男勝りの正ちゃんとおっとり江美ちゃん。平凡な妹とできる姉の対比。これといって事件が起こるわけではない。人間関係そのものが、すでに深いミステリーなのかもしれない。
“私”と円紫さんシリーズの第1作目。北村薫のデビュー作でもある。女子大学生の“私”がふと疑問に思った謎を、落語家の円紫さんが鋭い観察力と推察力で解き明かす。ミステリーは日常にあり。